工夫・改善の好事例
ここで紹介した事例を参考に、家内労働者が安全で健康に働くことができる環境を作るために、委託者への発注者、委託者の皆さんは、自分たちに何が出来るか考え、行動に移して頂ければ幸いです。家内労働者の皆さんにとっても、日常作業を見直すヒントがたくさんあると思います。

協働関係に関する好事例
発注者→委託者→家内労働者
「CSR調達ガイドライン」を制定している大手建設機械メーカーのサプライチェーンでは、発注者が年に2回、委託者の作業現場に出向いて安全パトロールを行い、法的対応(届出、点検等)や不安全箇所、不安全行動の有無を確認しています。委託者も家内労働者宅を訪問時に指導を実施。関係者全員がガイドラインを遵守し、安全衛生活動に取り組むことで、作業に伴う災害を防いでいます。
家内労働者→委託者→委託者への発注者→発注者
家内労働者にドア錠部品の組立作業を委託している大手住宅メーカーのサプライチェーンで、作業に使用する押し込み式電動ドライバーの締め付けトルクが強すぎて腕に強い負荷がかかり、家内労働者が腱鞘炎になったことがありました。委託者から連絡を受けた委託者への発注者が家内労働者の作業現場を訪れ危険性を確認。直ちに発注者に事情を説明して、家内労働者の手首に負担がかからない部品に交換しました。
委託者→発注者
発注者と委託者が、いわゆる発注者と下請けという関係ではなく、事業パートナーのような関係を築いて仕事を行っている学生服メーカーのサプライチェーンがあります。以前、製造コストを抑えるために、無理のある作業方法を提示されたことがありました。その作業は主に家内労働者に出しているものでしたが、その方法で縫製すると家内労働者の作業中に災害が発生するおそれがあると判断、自分たちで効率的で安全な縫製方法を考案し、発注者に提案しました。

安全管理に関する好事例
委託者→家内労働者
ドア錠部品の製造を行っている会社では、電動ドライバーを使って部品を組み立てる作業を家内労働者に委託しています。ドライバーを間違って踏んだり、上から押さえたりすると、スイッチが入り、動き出してケガをするおそれがあります。そこで高い所に保管できるようにスチール製のパイプで電動ドライバーを吊り下げる器具を独自に製作し、家内労働者に貸し出しています。安全性が高まるだけでなく、手に取りやすくなり、手にかかる負担の軽減、作業の効率化にもつながっています。
委託者→家内労働者
自動車関連電装部品の製造を行っている会社では、コネクタに差し込んだ電線が抜けないようにロックするための樹脂製部品の取り付けを家内労働者に委託しています。以前は家内労働者の作業に必要な治具を外注していましたが、3Dプリンターを導入し、内製化に踏み切りました。家内労働者の作業をより安全に行うことができる治具を迅速に家内労働者に提供できるようになったほか、外注費も抑えられるようになりました。
委託者→家内労働者
スポーツ用グローブの製造を行っている会社では、皮革製品の縫製作業を家内労働者に委託しています。貸与しているミシンの定期メンテナンス時に、保守・点検だけでなく、ミシンを正しい方法で使用しているかといったチェックを納入業者に依頼しています。「誤った使い方をしていた」、「消耗部品が未交換だった」といった事例が見つかり、その場で改善指導をしました。これまでに作業に伴う事故は起きていません。
委託者→家内労働者
点検・メンテナンスを実施
同社では、家内労働者にハンドプレス機を2台ずつ貸与しています。一つは、メンテナンス時期を正確に管理するために自社製のカウンターを付けたもので、決められた回数に達したら引き取ります。もう一つは、カウンターをつけられないタイプなので、1ヶ月に1回引き取ってメンテナンスを実施しています。不具合が起こってから回収するのではなく、不具合が起こらないように定期的にメンテナンスする。その甲斐あって、これまで一度も機器の故障もなく、作業に伴う災害は発生していないそうです。

作業環境管理に関する好事例
委託者→家内労働者
金属部品の組み立てを家内労働者に委託している会社では、提供した部品を適切に保管できるように「専用ケース」を家内労働者に貸し出しています。これにより、災害防止の基本である整理整頓を促しています。
委託者→家内労働者
宣伝用ののれん、のぼり旗の加工会社では、約30名の家内労働者が委託者が提供した作業場で縫製作業を行っています。その多くが高年齢者なので、加齢による視力低下を考慮して、照明器具の照度を測定して、作業場を適切な明るさに保っています。照度だけでなく、照明の当たる角度にも気を配り、手元が暗くならないように配慮しています。電気料金はかかりますが、これまで作業に伴う災害は起きていません。
委託者→家内労働者
ゴム製品の製造を行っている会社では、家内労働者に接着作業を委託しています。接着剤の中に法令に規定されている有機溶剤等は含まれていませんが、ゴム製品や接着剤には独特の臭いがあるため、新規に仕事を委託する時は、必ず作業場に出向いて換気状況を確認しています。マンションの場合は、風通しは良くても窓や扉を開放状態に出来ないところもあるので、実際に作業環境を訪れないと確認できないことが多いからです。
委託者→家内労働者
ビジュアルを使って分かりやすく伝える
ゴム製の自動車用部品の製造を行っている会社では、約40名の家内労働者に仕事を委託しています。外国人の家内労働者が数名いるため、日本語に習熟していない人にも配慮した方法で注意を促す必要があります。そこで誰もが危険であることを一目で認識・理解できるように、文字だけでなく、イラストも使って注意点や禁止事項を伝えています。

作業管理に関する好事例
委託者→家内労働者
鞄を製造している会社では、ミシンによる縫製作業を家内労働者に委託しています。鞄の縫製は、厚い生地や糸を強く押さえる必要があるため、手首を痛めるおそれがあります。市販のゴム製手袋を着用して作業を行えば手首にかかる負担を緩和することができるので、この会社では作業時のゴム製手袋着用を推奨しています。因みに、テーピングテープやサポーターを併用すれば、予防効果を高めることができます。
委託者→家内労働者
印刷物の加工を行っている会社では、家内労働者が委託者が提供した作業場で作業を行っています。作業内容は、座ってミシンで行う縫製作業、立ったままで生地を切ったり畳んだりする作業などです。この会社ではそれぞれの仕事を分業化するのではなく、1人が全ての作業を行うことで、座り姿勢の作業と立ち姿勢の作業を交互に行えるようにして、腰痛の防止に取り組んでいます。気分転換にもなるので家内労働者の評判も上々です。
発注者→委託者→家内労働者
自動車のヘッドレストやアームレストなどのパーツ縫製を家内労働者に委託している会社では、作業手順書や安全衛生に関する注意事項について、一律のマニュアル化は行わないようにしています。同じ情報でも、作業者毎に受け止め方が異なるからです。それぞれの作業者の特性を見極めて、わかりやすい注釈を付けたり、写真を添付するなどして、その人用のオリジナルマニュアルを独自に作成して家内労働者に手渡しています。
発注者→委託者→家内労働者
そこで得た情報を安全衛生活動に反映させる
電気機械器具に使用されるハーネスの製造を行っている会社では、年に1回、家内労働者に集まってもらい、社内で2時間程度の「内職者会議」を行っています。全員が参加できるように少人数のグループに分けて複数回実施、委託者側からの情報発信だけでなく、家内労働者の声に耳を傾け、安全衛生の周知啓発を行っています。会議への出席も仕事と位置づけ、出席者には手当を支給しているため、出席率は良好です。

健康管理に関する好事例
委託者→家内労働者
輸送用機器の部品を製造している会社では、アルミニウム製部品のバリ取りを家内労働者に委託しています。安全衛生対策を講ずるとともに、会社が費用を負担して、家内労働者は労災保険に特別加入しています。
労災保険特別加入制度

委託時の配慮に関する好事例
委託者→家内労働者
自動車用の電装部品を製造している会社では、家内労働者に年間を通じてコンスタントに仕事を委託しています。仕事量を増やしてほしいという要望もあるそうですが、発注する際には、家内労働者の経験や能力、年齢を考えたうえで、対応可能な仕事量を本人に確認しています。無理な量を発注するとプレッシャーがかかり、それが災害につながる危険があると考えているからです。
委託者→家内労働者
ゴム製品を製造している会社では、委託者が家内労働者に対してライフスタイルを考慮した働き方を提示しています。最初は自宅で作業を行う家内労働、時間に余裕が出来るようになったら社内の作業場で仕事をする場内内職、さらにパートタイムから契約社員、最終的に正社員登用という道も選択することができます。
【コラム】
近年、働く高年齢者が増えています。高年齢労働者は、豊富な経験を有し、貴重な労働力である一方で、加齢による身体機能の低下から、労働災害に被災する割合も増加傾向にあります。なかでも転倒や腰痛に係る災害発生率が若年層に比べ高く、休業も長期化しやすい傾向があります。
高年齢になっても働き続けられる社会づくりが求められる中で、老若男女を問わず全ての人が働きやすい職場環境づくりに注目が集まっています。
委託者・委託者への発注者のみなさん、労働災害の防止に積極的に取り組み、働く高年齢者の特性に配慮したエイジフレンドリー※な職場環境づくりを目指しましょう。家内労働者のみなさんも、委託者の取組に協力するとともに、自分の健康を守るための重要性を理解し、自らの健康作りに積極的に取り組みましょう。
※エイジフレンドリーとは「高齢者の特性を考慮した」を意味する言葉で、WHOや欧米の労働安全衛生機関で使用されています。
作業を委託する際は、作業内容を明確にし、図・絵・写真などを使って具体的に指示する
自分のペースで無理なく作業ができるように、時間に余裕を持たせて発注する
強い筋力を要する作業の委託は控え、取り扱う重量物には、重量を表示する
家内労働者が自らの健康状態を把握できるような指導を行う(医療機関の紹介など)
疾病を抱えながら働き続けることを希望する場合は、治療と仕事の両立を考慮する(通院などに配慮)
体力が低下した家内労働者に、身体機能の維持向上の支援を行う